社長依存から抜ける手順。
人が採れない前提で、仕組みからつくる
社長がいないと回らない会社は、利益が出ていてもPERが上がりません。書き出す、渡す、抜ける。人を採る前に、渡せる形をつくる順番を書きます。
社員が帰ったあとの事務所で、来月のシフトを一人で組み直している。
求人を出しても応募が来ない。来たとしても、教える時間がこちらにない。抜けた穴は、結局その週のうちに自分で埋めている。今月もそうなりました。
この状態は、たいてい忙しさの問題として語られます。人が足りない、時間が足りない、だから自分が動く。
ただ、会社を渡すとき、売るとき、あるいは外から資本を入れるとき、ここは忙しさの話ではなくなります。値段の話に変わります。
人がいないことは、すでに数字に出ている
東京商工リサーチは、人手不足倒産を309件と集計しています。赤字が理由ではなく、人がいないために回らなくなった会社の数です。
同じ東京商工リサーチの調べで、社長の平均年齢は63.81歳。帝国データバンクによると、2024年の休廃業・解散は69,019件あり、そのうち51.1%は黒字でした。
- 人手不足倒産(2024年度)
- 309件
- 東京商工リサーチ
- 社長の平均年齢(2025年)
- 63.81歳
- 東京商工リサーチ
- 2024年の休廃業・解散
- 69,019件
- 帝国データバンク
- そのうち黒字だった割合
- 51.1%
- 帝国データバンク
利益が出ていても、続ける形がないまま終わる会社があります。人がいない、後継者がいない、そして渡せる形になっていない。この三つは別々の問題に見えて、実際には同じ場所でつながっています。
会社の値段は、面積で決まる
会社の価値は、利益とPERの掛け算で計算します。
利益は横の幅です。決算書に、すでに書かれています。
PERは縦の高さです。こちらは、どこにも書かれていません。
価値は、その二つが囲む面積になります。
PER(株価収益率)は、会社の価格が利益の何年分かを表す数字です。同じ利益1億円の会社でも、PER3倍で見られるかPER15倍で見られるかで、面積は5倍違います。
利益を伸ばす話は、横幅を広げる話です。多くの経営者が、ここに時間を使っています。
PERは、縦を伸ばす話になります。そしてPERを動かす要素は、三つに絞れます。収益の継続性、業務の仕組み化、経営者への依存度。
三つ目が、今日の話です。
買い手が最初に見るのは、社長の不在時間
買い手も、後継者も、外部の投資家も、同じ一点から入ります。
この利益は、いまの社長がいなくなった後も続くのか。
この問いに紙で答えられない会社は、利益が出ていてもPERが上がりません。理由は単純で、買っているものが会社ではなく、社長個人の稼働になるからです。稼働は引き継げません。
段位で言うと、こうなります。
- PER30倍プラットフォーム
会社が、あなたがいなくても価値を生む資産になっている状態です。
- PER15倍スケール
継続収益が積み上がり、来期の売上が読める状態です。
- PER5倍システム
業務が手順になり、社長がいなくても一日が回りはじめた状態です。
- PER3倍コモディティ
仕事が社長で回っている状態です。仕組みも継続収益も、まだありません。
3倍と5倍を分けているのは、売上でも社員数でもありません。社長の不在に、会社が耐えられるかどうかです。
人が採れない前提から始めると、順番が変わる
依存を薄めるには人を増やす、という順路が自然に見えます。採用して、任せて、自分の手を空ける。
ただ、人が採れない前提に立つと、この順番は続きません。
先に、渡せる形をつくる。渡せる形になってはじめて、採れた人が戦力になります。順番が逆だと、入った人は「社長のやり方を見て覚える」ところから始めることになり、その社長には教える時間がありません。だから辞めます。そしてまた募集を出すことになります。
人手不足を、採用の問題としてではなく、引き継ぎの設計の問題として扱う。ここが入口になります。
段階は三つです。
- 第一段階
書き出す
自分にしかできない仕事を、名前をつけて紙に出します。頭の中にあるうちは、渡す対象になりません。
- 第二段階
渡す
出したもののうち、判断を伴わない作業から先に渡します。判断が要るものは、判断の基準のほうを先に書きます。
この二つ目で止まる会社が多いところです。作業は手順書になりますが、判断は手順書になりません。値引きをどこまで認めるか、どの客を断るか、支払いを待つか。長年やってきた人ほど、これを言葉にしないまま体で覚えています。
基準を書くときは、正解を書こうとしなくて構いません。過去に自分が下した判断を三つ思い出して、そのときに何を見たかを書くほうが早く進みます。金額を見たのか、相手の顔ぶれを見たのか、その月の資金繰りを見たのか。判断の理由が三つ並ぶと、四つ目からは他の人にも同じ判断ができるようになります。
- 第三段階
抜ける
短い期間、実際に離れます。止まった箇所が、次に手を入れる場所です。
一と二を飛ばして三をやると、ただ現場が混乱します。三をやらないと、一と二が机上のままで終わります。
「うちの仕事は特殊で、渡せない」
この話をすると、まずこの言葉が返ってきます。そして多くの場合、それは本当です。
長く続いている会社の仕事は、たいてい特殊です。取引先との関係も、値付けも、現場の判断も、その会社の歴史の上に乗っています。教科書どおりに標準化できるなら、とうに誰かがやっています。
ただ、渡せないことと、書き出していないことは、別のことです。
書き出したうえで「これは渡せない」と結論が出た仕事は、その時点で会社の資産になります。何が固有の強みで、誰がそれを持っているかが、外から見える形になるからです。買い手が嫌がるのは、渡せない仕事があること自体ではありません。渡せない仕事が、どこに、いくつあるのかが誰にもわからない状態です。
前者は値付けができます。後者は、値付けができないという理由でPERが下がります。
だから最初の一手は、標準化ではなく棚卸しになります。
道筋が見えた、という言い方
体験講座に参加された方の言葉を、そのまま引きます。
今現在のステージがどこにいて、ここから組織をしっかり拡大させて、プロフェッショナルチームを作って、っていうその道筋が見えたので、僕はここから何をしたらいいのかわかった
この方がおっしゃっているのは、組織が完成したということではありません。いまどこにいて、次に何をするかがわかった、ということです。依存から抜ける作業は、そこから始まります。
紙を一枚、用意する
読み終えたあとに、手を動かせる形にしておきます。
紙を一枚。三つの列をつくります。
明日から30日間、会社に一切入れないとします。連絡も、指示も、できません。
- 一列目に、止まることを書く。
- 二列目に、遅れるが進むことを書く。
- 三列目に、変わらず回ることを書く。
| 一列目止まること | 二列目遅れるが進むこと | 三列目変わらず回ること |
|---|---|---|
一列目に並んだものが、いまあなたのPERを押し下げている項目です。数が多いことより、そこに「判断」と名のつく仕事がいくつあるかを見ます。作業は渡せます。判断は、基準を書かないと渡せません。
三列目に何も書けなかった場合、それは会社が小さいからではありません。まだ書き出していないからです。
この一枚は、後継者にも、買い手にも、銀行にも見せられます。同じ紙が、三方向で使えます。
自社にあてはめて確かめる9問の診断があります。所要は約3分で、選ぶだけです。出口タイプはその場で表示します。PER段位は、お名前と連絡先のご登録後にお渡ししています。
BCB 出口戦略プログラム(Business Capital Blueprint)は、オーナー経営者が自社の価値を自分で算出し、売却・IPO・承継・合併の四つの出口から進路を設計するためのプログラムです。
※本記事のPERおよび段位は、会社の価値を読むための参照であり、売却価格を約束するものではありません。
注記(よくある質問)
経営者への依存度は、会社の売却価値にどう影響しますか。
買い手や後継者は、この利益がいまの社長がいなくなった後も続くのかを最初に確かめます。この問いに紙で答えられない会社は、利益が出ていてもPERが上がりにくくなります。買っているものが会社ではなく、社長個人の稼働になるためです。PERは会社の価値を読むための参照であり、売却価格を約束するものではありません。
社長依存から抜けるには、何から始めればいいですか。
最初の一手は標準化ではなく棚卸しです。自分にしかできない仕事を名前をつけて書き出し、判断を伴わない作業から先に渡し、判断が要る仕事は判断の基準を先に書きます。そのうえで短い期間、実際に会社を離れ、止まった箇所を次に手を入れる場所にします。
人が採れない会社でも、社長依存は減らせますか。
採用より先に、渡せる形をつくる順番にします。渡せる形がないまま人が入ると、社長のやり方を見て覚えるところから始まり、教える時間がないために定着しにくくなります。人手不足を採用の問題ではなく、引き継ぎの設計の問題として扱うのが入口です。
「うちの仕事は特殊で渡せない」場合は、どう考えればいいですか。
渡せないことと、書き出していないことは別のことです。書き出したうえで渡せないと分かった仕事は、固有の強みとして外から見える資産になります。買い手が嫌がるのは、渡せない仕事がどこにいくつあるのか誰にも分からない状態で、その場合は値付けができないという理由でPERが下がります。
出典
- 東京商工リサーチ 2024年度「人手不足」倒産 最多の309件 小・零細企業が押し上げ、年度初の300件台(2025年4月8日)本文の数字:人手不足倒産 309件(2024年度)
- 東京商工リサーチ 「社長」の高齢化進む、16年間で4歳上昇 平均63.81歳、最高は秋田県の66.31歳(2026年3月5日)本文の数字:社長の平均年齢 63.81歳(2025年)
- 帝国データバンク 全国企業「休廃業・解散」動向調査(2024年)本文の数字:休廃業・解散 69,019件、うち黒字 51.1%
- 受講者の言葉:小林淳司氏(株式会社ボディスクールアウト 代表取締役)BCBの講座参加時の感想を、要約せずに引用しています